
片手でサンジの足首を掴んだままで器用に鍵を開け、玄関を入ると真っ直ぐにベッドルームと思しき最奥の
部屋へと進み、窓際に置かれたダブルサイズのベッドへとサンジを軽々と放り投げた。
「何しやがるっ!」
怒りと逆さにされていた影響とで顔を真っ赤にして喚くサンジには目もくれずゾロはサイドテーブルから何かを
取り出そうとしていた。
次に振り向いたゾロの手にはロープが握られていた。
「なっ・・・」
サンジは今度こそ言葉を失なった。ロープの使い道を想像して血の気が引く。
「SM用のロープだ、前につきあってた女にMなのがいてな、そいつが縛れってうるさくてよ」
それを取り出してどうするというのだと反論するより先にサンジは逃げ出そうとした。
このシチュエーションでは使い道など容易に知れるというものだ。
逃げなければ、と反射的に躯が動いていた。
けれどスプリングの効いたベッドの上で上手く動けぬままにゾロに取り押さえられ、動きを封じられた。
「そん時に縛り方はひと通り覚えた。心配すんな、見た目ほど痛くはねえよ」
嗤いながらサンジの両腕を拘束してロープを巻いていく。
「本格的に縛るわけじゃねえから疵も、そう残らねえだろうし」
「や、やめろっ」
青褪めるサンジを意にも介さずにロープの先をベッドヘットへと括りつける。
「てめえが素直におとなしくしてりゃあ酷えことはしないさ」
「俺にっ、何する気だ?!」
「俺が毎晩、好きでもねえ女連れ込んで必死に声出させてたってのに、てめえは一向に何も感じなかったって言いやがる」
「・・・それがこれと何か関係あんのかよ?」
「てめえの女好きは大学じゃあ知らねえ奴はいないくれえ有名だ」
「だから、それがコレとどんな・・・」
「てめえの関心を買うためだろっが」
「え?」
「女使えば、てめえが俺に関心持つと思ったんだがな」
「・・・・・・へ?」
「どうやら逆効果だったらしいな。てめえがホモだとは知らなかった」
「誰がホモだ!!違うって言ってんだろがっ!失礼なことほざくんじゃねえってのっ!」
「それこそ信じられねえな。昨日だってエースを誑しこんでたじゃねえか」
「タラし・・・って、何だよ、ソレ!」
「エースにココ触られてエロい声出してやがったじゃねえか」
「何言ってやが・・・っ!んんっあ、ああっ」
徐に股間を弄られてアラレもない声が出た。
「そうそう、その声だ。出してたろうが!」
再び弄られてサンジは息を飲んだ。
「んっ・・・ふっう・・・」
「エースにはどこまで許した?どこまでヤらせた?何されたか言え」
「な、っんのこっ・・・うぁっ、んっ」
更に揉み扱かれて息を詰める。
「しらばっくれんなよ。てめえが俺の部屋の音が聞こえてんのと同じように俺にだっててめえの声が聞こえてんだよ」
サンジには理解できなかった。
急に豹変して自分を襲ってきたゾロの言うことがよく解からない。
それじゃあ今までゾロの部屋へ来ていた女性たちが当て馬にされていたように聞こえてしかたがないではないか。
しかも昨夜のエースとのやり取りまで取沙汰されて追及されるに至ってゾロの本命が自分であるようにさえ聞こえて
サンジは混乱した。
「・・・い、意味解かんねえよっ」
「解かんねえことないだろが。それともこれが男を手玉に取るてめえの手法か?」
「だからっ!俺はホモじゃねえって!昨日のエースのアレだって、ちょっとジャレてきただけじゃねえか」
ジーッとサンジを見つめるゾロの眉間の皺が深くなり、その眼に剣呑な光が宿る。
次いで「ふーっ」と溜め息がこぼれ、怒っていた肩が微妙に下がった。
「クソッ・・・天然かよ。性質悪りいな」と口中で呟いているゾロを不思議そうに見つめる。
「よ、よく解かんねえけど誤解解けたんならコレ解いてくれよ」
そう言って頭上に一纏めにされている両腕の手首を振ってみせる。
「まだ、そいつは外さねえ」
「え・・・」
サンジは再び蒼褪めた。
「俺は毎晩のように女を盛大に喘がせて、てめえが怒鳴りこんでくるのを待ってた。怒鳴り込んできたら反対に
ねじ伏せて手籠めにして、まずは既成事実作ってよ。んでその後で口説いて口説きまくってオトしてやろうと思ってた」
「な、に言っ・・・」
「なのに幾ら待っても、てめえは来やがらねえ。終いにゃあエースになんぞにいじくられやがる」
ギロリと強い眼差しで睨みつけられて躯が竦む。
「このままのたりくたりと、てめえがやってくんのを待ってたんじゃエースにオイシイところを持ってかれちまうと焦って、
何か良い案はねえかと思案してた。そうしたらそこに、てめえが飛び出してきた。こりゃあ、まんまカモネギじゃねえか」
(・・・・・こいつ何の話をしてやがんだ?)
目の前で肉食獣がペロリと舌舐めずりしているのをサンジは上手く働かない頭で、遠くのことのように感じていた。
「なら喰うまでよ」
言うなり、パクリと首筋に喰いつかれた。
「うっひぃっ!?」
「色気ねえなぁ」
サンジの首に唇を落としたまま器用に「くくくっ」と喉の奥で嗤う。
「お、俺は男なんだから色気なんかあってたまるかっ!」
嗤われてカッとなって反論を口にするとゾロの嗤いが悪化した。
「なんでっ!何で嗤いやがんだっ!?」
ジタバタと暴れるとグイッと顎を捕まれて目を覗き込まれた。
「俺が今から、てめえが色っぽい声で可愛く啼けるよう仕込んでやっから」
その双眸には凶悪な野獣が巣食って見えた。
「覚悟しとけ」とダメだしされてサンジは焦燥する。
そうこうする間にもゾロがサンジの着衣を乱していく。シャツの釦が一つ、また一つと外されて白い肌が露わになって
くると焦りは加速する。
(やべえ、やべえよっ)
肌蹴られた肩が外気に触れ、ひんやりとした空気にビクリと震える。
鎖骨から肩へのラインを唇でなぞられ、ぞくりとした。
(ど・・・どうすんだ・・・このままじゃ・・・)
サンジはパニック寸前で思考を巡らせていた。
「・・・おっ、俺の気持ちは全く無視かよっ!!」
辛うじてそんな言葉を投げつけるとゾロの動きがぴたりと止まった。次いでサンジの肩付近に落としていた顔が
引き上げられて真正面、至近距離で向き合うことになった。
「ふ〜ん、そのおつむもちったぁ働くってことか」
何気に失礼極まることを言われたけれどサンジは動転していて気がつかなかった。
再びジーッと見つめられ、居心地の悪さにモゾモゾとしているとズイッとゾロが顔を覗き込んできた。
額がぶつかる程、間近で見るゾロの双眸は綺麗に澄んでいて澱みの一点たりとなかった。
(こいつの目、深緑がかった不思議な色してんだ・・・)
場違いにもそんなことをのんびりと思っていたらゾロがまたしてもニヤリと悪人面に拍車がかかる嗤いを浮かべた。
「んじゃあよ。てめえが俺のテクでイかなきゃ最後までは勘弁してやる」
「へ?なんだ、そりゃ」
「てめえが俺に弄られてイかなかったら最後まで犯るのは諦めてやると言っている」
目が点とはこのことだとサンジは思った。有り得ないだろう、と。
「・・・・・本気か?本気で俺を犯ること考えてんのか?っていうか、てめえこそホモだったんかよ?」
サンジの頭の中はゾロへの疑惑と疑問だらけだった。
「違えよ。俺はホモなんかじゃねえ。けどな・・・ああ、もう、ンなのは後回しだ。いいか、もしコトの最中にてめえが
一度でもイッちまったら即フルコースだぜ」
交換条件を聞いてサンジは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
けれどゾロもホモでもないというし、それなら男同士でイく、イかないなどハナから有り得ない話だと思ったから
同意にこくりと頷かせた。
サンジにはイかない自信ももちろん在った。なにせ目の前の相手は男なのだ。
ゾロのほうだって今は何を血迷っているか知らないがお互い裸になってよく見りゃ、きっと正気に返るとサンジは
思った。そう確信を持っていたのだ。
「その言葉、忘れんじゃねえぞ。イかなかったら即開放しろよ」
「ああ。てめえこそ覚悟しやがれ」
そうして喧嘩腰のベッドタイムが始まった。
結果はサンジの惨敗だった。
完膚なきまでの負けっぷりだった。
ゾロの手管によって好き放題に喘がされ、啼かされ、挙句にあらぬ場所に奴の危険極まりない物騒すぎるブツを
咥えこんで最後には自ら腰を振って善がっていた。
つまり・・・サンジは美味しくフルコースでいただかれてしまったのだった。
自身はホモではないと言っていたくせにゾロは男相手に悦ばせる方法を周到に知っていた。
知り尽くしていたと言っても過言ではないとサンジは思っている。
「・・・嘘吐きめ」
小さく文句を声に乗せると傍らでシーツの上に流れるサンジの金髪を摘まんで遊んでいたゾロが「ん?」とこちらを向いた。
「てめえホモじゃねえって言ったじゃねえか」
「ああ」とゾロは納得したように頷いた。
「確かに俺はホモじゃあねえ。ケド、てめえをモノにするって決めた時にひと通りの勉強はした」
「・・・・・・・・・・は?」
サンジは呆然とゾロを見返した。
「今の時代、ネットで何でも調べられんだろ」
男同士のセックスの仕方から、それを実践できる場所と人、それに行為に及ぶ時に必要なものまで、それこそ何でも。
だから調べて調べて。
この春の大学受験の時よりも必死に勉強してきたのだとゾロはシレッと言ってのけ、サンジを唖然とさせた。
「俺がホモじゃないって実証できたのも実践あったればこそだったしな」
ネットで調べて出掛けていったハッテンバと呼ばれる場所でサンジに似た面立ちの相手を見繕い、いざベッドインを
果たした際、ゾロは自分が他の男相手には勃起しないことを確認したのだった。
けれど隣に住む、同じ大学に通う男のことを思い浮かべるだけで躯の芯が疼き始め、女相手に盛る時よりもソソリ
勃つ自慢の息子の状態を考えるに、結局、自分はその男に惚れているのだという結論を導き出し、理解した。
それが解かっただけでも大きな収穫だったとゾロは思っていた。
「そりゃあ・・・勉強熱心なこって」
呆れを多分に含んだ声でサンジは力なく言った。
そういう肝心なことは先に言いやがれっ、という一言は心中でのみ吐き出した。
てめえ限定で勃つと言われて喜ぶ男がこの世にどれだけいるだろうとサンジは深い溜め息を吐いた。
「ンだよ、その顔は。今更、何が不満だ?」
ゾロが不機嫌に顔を寄せてくるのへサンジは口を尖らせてみせた。
「だって、てめえ今までそんな態度これっぽっちも見せなかったじゃねえかよ」
「そうだったか?けど、そういうてめえだって結構、俺が気になってたんじゃねえのかよ」
「何で俺が!?」
勝手に決めつけられてサンジはムッとして声を荒げた。
険悪な顔で睨みつけてもゾロは平然としている。それどころか
「そんじゃあよ、てめえは何の気もねえ奴にこういうコトされてよ」
そこまで言って一旦、言葉を切るとニヤリと嗤ってサンジを見た。
「初めてのくせに俺に弄られて、あんなに乱れてよ」
「うっ、うわああああああああ、言うなあああああああ」
「最後には自分からケツ振ってたじゃねえか」
「ぎゃあああああああああああああ、ってめえっ殺す!ぶっ殺してやるっ!!」
顔を真っ赤にして殴りかかってこようとするサンジを逆にねじ伏せてボスッとベッドに沈め、その上でゾロはニヤリと嗤う。
「俺以外には犯らせんなよな。もし・・・」
サンジに覆い被さって耳朶に唇を寄せ、フーッと息を吹きかけながらニヤリと嗤って低く囁く。
「他の誰かにココ許したら腰が立たなくなるまで折檻だからな」
言いながらサンジの秘孔に指を這わせ、捻じ込んだ。
「なにっ、あ・・・・・くっ、あっ・・・つうっ・・・」
咄嗟のことでビクリと背を撓らせると使いすぎて疲弊した腰が痛みを訴えた。
次いでキュウゥと収縮したソコは過激な性交の後で熱を持ち疼いたままで、新たに迎え入れたゾロの指に過剰に
反応してしまった。
ゾロの指を咥えこんで条件反射でキュウキュウと絞めつけてしまった途端、耳朶に抑えた嗤い声が聞こえた。
「へえ、指1本でも感じんのか。こりゃあ仕込み甲斐あんな」
愉しそうに言われてサンジの顔は羞恥でカアッと火照った。
もの凄い勢いで背後のゾロの手を掴み取ると自分の躯から引き剥がす。
「うっせえよっ!だ・・・大体てめえこそどうなんだよ?」
負けずに応酬するとゾロの片眉がピクリと上がった。
「何が?」
「さっきから聞いてりゃ、俺にだけミサオ守らせて、てめえは好き放題かって言ってんだっ!!」
「あ〜・・・」
ゾロは悪びれることなく、ポリポリと鼻の頭をかいた。
「これ以上、罪もねえレディたちをてめえの毒牙にかけんじゃねえっ!」
「まあ、そのうちな」
「俺に惚れてるとかなんとか言っときながら、そのうちかいっ!」
怒鳴りながらもサンジは胸が痛かった。
(惚れてるとか耳触りの良いこと言っても俺とのことは所詮その程度ってことかよ)
胸の内に灯ったその感情が何であるか、この時のサンジは知らなかったけれど。
「まあ、今日のところは俺に勝ちを譲っとけ」
「何だよ、それ。どうして俺が負けてやらなきゃなんねえんだよ?」
不満を露わに頬を膨らませるガキ臭いサンジにゾロは破顔した。
「誕生祝いってことで」
「は?」
「今日は俺の誕生日だったんでな。だから祝いってことで」
「な・・・」と言ったきりで言葉の続かないサンジに首を傾げる。
「おい、どうした?」
肩に手をかけると、その手を払ってサンジがガバリと起き上がった。
「ンな大事なことは早く言えよ!!」
えらいこっちゃ と慌ててベッドを降りようとするサンジは全裸であることに今更ながらにギョッとし、僅かに
躊躇したものの、意を決して纏っていた毛布を剥いだ。
白い肢体を惜しげもなく曝してベッドを出る。躯のあちことに散る赤い花はゾロが付けたものだ。
だるそうな腰を庇いながら歩く足許は不安定で心許ない。その理由は知れているけれど。
少し見動く度に顔を顰めているくせに床に散らばった衣類を探しだし、身に着けようとしていた。
「・・・ほんっとに好き放題しやがって」
少しは手加減しろよと文句を言いながら緩慢な動作で自分の着ていた服を探しては身に着けていく。
「・・・急にどうしたってぇんだ?」
初めて男を受け入れた後で辛くないはずがないのだから無理はやめればいいとゾロは思い、口を挟んだ。
「どうした、だぁ?」
地を這うような低音を響かせてサンジが振り返った。
「誕生日なら誕生日と最初に言いやがれ!そうしたら、ちゃんと祝ってやってたわっ!!」
それが今しがたレイプされたばかりの男の加害者に対して言う言葉だろうかとゾロはポカンとサンジを見つめた。
「急がねえと!スーパーはいいとしてケーキ屋が閉まっちまう!」
着衣を正し、財布を確認すると出て行こうとするからゾロは身を乗り出して慌てて腕を掴んだ。
「邪魔すんなっ!間に合わなくなんだろっ」
眦を上げて声を荒げる男に「はは、ははは」と笑いが出てしまった。
サンジのお人好しさに笑いが止まらない。
「てめえっ何笑ってやがんだっ」
更に血圧を上げる忙しない男の細い両の肩を掴んでゾロは真っ直ぐに見つめた。
「何も要らねえ。てめえが横にいればそれでいい。だから、ここに居ろ」
駆け引きも嘘も、偽りのなに一つ混じらない真摯な言葉を綴る。
大学に入ってからのここ数ヶ月、ずっとかぶり続けていた【悪人】の仮面を剥いだ。
(こいつは騙していい相手じゃねえ)
サンジのお人好しさ加減をつぶさに見せつけられてゾロは自分も正直になることを選んだ。
「ほしいのは、てめえだけだ」
その途端
サンジの青い海の瞳が大きく、大きく見開かれ、次いでその海に小波が生まれる。
睫に縁どられた堤防が決壊しそうなほどに透明な膜が盛り上がり、終にはスーッと頬へと伝い落ちていくのを
驚くほど静かな気持ちで見つめた。
「・・・・・てめえ、ずりぃ」
泣くのを堪えようとしてグズッと鼻を啜るサンジの頭をひしっと抱きしめた。
「ンなこと言われたら絆されちまうじゃねえか」
抱きしめた胸の中でサンジがボソボソと呟く。
「おう。絆されて、とっとと俺のモンになっちまえ」
素直に気持ちが言葉に成って口から出た。
あまりにも簡単すぎて悪ぶって見せてきたここ半年ほどの自分が滑稽にさえ思えた。
こんなにも簡単なことをどうして言い出せなかったんだろうと自分の弱さを思い知り、唇を噛みしめる。
振られるのが怖かった ただそれだけだっただろうと今なら解かる。
姑息に画策して罠を張らなくてもよかったのだ。
サンジはこんなにも真っ直ぐだ。
こんな酷い目に遭わされた後にも関わらず、誕生日を祝うために急いで買い物に出ようとしてくれる彼の誠意に
ゾロは瞑目し、自らの不甲斐なさを自責した。
(まだまだ修行が足りてねえな・・・)
やはり女と遊んでなどいないで鍛錬に精を出さねばと誓う。
ぎゅっと痩身を抱きしめて金色の髪に唇を落とす。
「てめえが好きだ」
やっと本心を告げると、その腕の中でサンジがピクリと反応したのが解かった。
「・・・てめえは俺が好きなのか?」
くぐもった声で訊かれ、ゾロは抱き込む腕に更に力を加えた。
「じゃなきゃ勃たねえって」
好い雰囲気だと思った矢先、ぐいっと胸元を押し返された。
今更、何で拒絶されるのかと慌てて目で追うと正面でサンジが顔を上げてゾロを真っ直ぐに見つめていた。
「俺ってさ、こう見えて考え方、古風なわけよ」
いきなり何を言い出すのかとゾロは眉を寄せた。けれど口は挟まなかった。
「だから、ツマミ喰いばっかして身持ちの悪い八方美人さんはお断りだ」
ゾロは「ぐっ」と言葉に詰まった。反論の余地もないとはこのことだった。
「俺の相手は生半可な気持ちじゃ務まらねえ。遊びは論外もってのほかだ」
言葉は穏やかだけれど青い目は笑わずに真剣そのものだった。
「・・・俺は中途半端ってか?」
「ああ」
「言ってくれるぜ」
あまりに素っ気なく即答するサンジに苦笑した。
「生涯添い遂げようくれぇの気概がねえんなら、やめといたほうがいいと言っているだけだ」
「なあ今、気概って言ったか?」
こくりと静かに頷く金色の頭に血が上った。
「俺の本気ナメてんじゃねえっ!こちとら男相手に告ってんだ!腹ぁ括ってないわけねえだろがっ!」
額に血管を太く張り付け、凶悪な顔つきでゾロはそう怒鳴った。
途端、正面でサンジがにっこりと笑った。
「腹括ってるってぇんなら今まで付き合ってきたレディ全員と切れてこい。んで詫びろ」
声は冷えたままだった。
ゴクリ ゾロの喉が鳴った。
(こいつは・・・)
ここにきてゾロはサンジが一筋縄ではいかない性格であることを悟った。
(大した交換条件を突きつけてくれる)
思った途端、何故だか笑いがこぼれた。
「何を笑っていやがる?」
訝るサンジに目を合わせ
「よしっ、明日、全部と綺麗さっぱり切れてきてやる」と宣言した。
「へえ」
どうせ出来ないだろうと高を括って鼻で嗤う余裕の態のサンジをニヤリと嗤って見返す。
「それが出来たら、てめえは俺のモンってことでいいんだな?」
念を押されてもサンジは笑っていた。
「ああ、出来たらな」
これで言質は取れたとゾロは人の悪そうな笑みを深くした。
「その言葉忘れんな」
片頬を上げてシニカルに嗤うと、その双眸にもう一度しっかりとサンジを真っ直ぐに捕らえた。
翌日。
サンジは構内で大勢の女性に捕まり、詰め寄られて「ゾロを盗った泥棒猫」呼ばわりされて悲鳴を上げていた。
傍らには涼しい顔のゾロがベンチに腰掛けて、その様子を愉しそうに見つめている。
「バカアヒルめ、俺を甘く見てんじゃねえよ」
悪人面に笑みを浮かべて殺気立つ女たちの中心に聳える金髪頭をのんびりと眺めている。
ゾロはやる時にはやるのだ。
けれど、一人ではタダ転ばない。
一蓮托生だとばかりにゾロはサンジを巻き込んだ。
これまで付き合ってきた女性たちを一同に集めて「俺はこいつに惚れた。こいつが二股は嫌だってぇからお前ら
別れてくれ」とのたまったのだった。
実際には二股どころの話ではないのだけれど。
ゾロが急に惚れたと連れてきた相手が男で、しかも女性至上主義を謳っているサンジとくれば女性陣は誰も簡単に
納得しなかった。それは遠巻きに見学している外野も同様で。
「なんで!?だってサンジくんって女の子好きなんでしょっ!」
「そうよ、いつも男は蹴りつけていたじゃない!!」
「ゾロだってホモなんかじゃないでしょっ!!」
「今までずっとたくさんの女の子と付き合ってたじゃない!!」
「そうよ、何も男なんかに走らなくてもいいでしょっ」
「あ、もしかして!私たちのうちの誰かと本気で別れたいからサンジくんとお芝居してるんじゃ・・・」
「そっか!そうなのね、ゾロ」
皆が異口同音にゾロとサンジの仲を紛いものと論じている。
まあ、無理もないとは思うのだ。
あれだけ女を侍らせていたゾロと。
あれだけ女性に尽くしていたサンジ。
こんな顛末を簡単に納得がいく者などいないだろう。
敬愛する女性陣に吊るし上げを喰らって独特の眉毛をへにょんと下げてほとほと困っているサンジを見ながら
ゾロは、のんびりと欠伸を噛み殺した。
(女ってぇ生き物はおめでたく出来てんだな。簡単には信用しやしねえ。あいつも女の怖さってモンを知れば多少は
懲りるだろうさ)
そろそろ頃合かとゾロは崩していた体勢を正す。
「なあ、おい・・・」
そこへタイミング良く、心なしか哀れさを感じる声がゾロを呼んだ。
「ゾロてめえ、ンなとこでシカトしてねえでレディたちにちゃんと事情をご説明申し上げろよっ」
暗に助けを求めていると知れるサンジの声にゾロはニヤリと人相悪く嗤った。
「助けてほしいか?」
単刀直入に訊くと金髪が肯定にコクコクと揺れた。
「しょうがねえな」
すくっと立ち上がると人垣をかき分けて輪の中心に居たサンジの細いウエストを攫う。
ゾロの急な行動に周囲も、サンジも一様に驚き、その場の動きが止まる。
「えっ・・・」
驚きで漏れた小さな声とともに振り向けられた顔を確りと捕らえてゾロは徐に口付けた。
至近距離の真正面でサンジの青い目が激しい驚愕に大きく、大きく見開かれていくのを満足げに見つめ、
唇を重ねたまま嗤った。
周囲の女性陣の茫然とした視線を一心に受けていることを確認しながらゾロは更に重ねる角度を深めて
サンジの口中を好き放題に犯した。
「うーぅぅ、うー・・・んむっ・・・」
サンジは必死にゾロの肩を掴んで押し退けようとしているけれど叶わず、ゾロの躯は微動だにしない。
必死さのあまり青い目に涙が浮かぶのさえ一興とゾロはほくそ笑んだ。
一頻り唇を貪って離れると周囲の女性陣の視線が変わっていた。
茫然とゾロを見る者、何故だか恍惚の表情を浮かべている者、顔が強張っている者、怒りを露わにしている者、等々。皆それぞれだった。
外野からの視線も同様で。但し、こちらのほうの中には拍手を贈ってくれる者までいたけれど。
サンジのほうは腰に力が入らないらしくゾロに凭れかかるような仕草で支えられていた。
「・・・ゾロあなた本気なのね」
長い沈黙の後、一番落ち着いた女がそう告げるとゾロは口の端を吊り上げて不敵に嗤い、確りと頷いた。
「どうやら、あなたたちの間に入りこむ隙はなさそうだわ」
そう言うと踵を返して歩き出した。
「私、男と張り合うほどにはあなたを好きなわけじゃないの。さよなら」
それをきっかけにして次々に女性たちがゾロの下から去り始める。
中には「信じていたのに!」と泣きながら走り去る者もいたけれど概ね皆冷静でゾロは拍子抜けしそうだった。
「てっきり一人くれえは殴りかかってくるかと思ったんだが」
シレッとそんなことを呟いた途端、傍らでクタッと腰砕けていたはずのサンジの蹴りがゾロの背後を襲った。
ゲシッと後頭部に蹴りを決められてゾロはクワッと歯を剥いて怒った。
「いってえなっ!何しやがるっ、こんのクソ眉毛!!」
「何しやがるったぁ、そりゃあ俺様のセリフだっ!アホマリモがっ!」
サンジのほうも頭から湯気を出さんばかりに熱く怒っていた。
「レディたちの前でディープキスなんぞ、かましやがって!てめえ一体どういう了見だっ!」
ヒートアップして口数が増えているから騒々しいことこの上ない。
しかしゾロは動じもせずに、ふふんと嗤って胸を張った。
「てめえが腹括れって言ったんじゃねえか」
「ああ、言ったさ!けど、それとこれがどう関係あるってんだっ!」
尚も不遜な態度を崩さないゾロの襟首を掴んで揺さぶるサンジの両の手を逆に掴んで捕らえると何か企んで
いるような人の悪い笑みを浮かべたふてぶてしい顔を寄せてくる。
「大いに関係あるだろが。俺はてめえのために腹括ったんだ。なら、てめえにだって同じように腹括ってもらう。
いわば一蓮托生。その段階で俺たちゃ運命共同体じゃねえか」
「なっ・・・」
「それにてめえと俺がデキてるって理解させるにゃあ、ちょうど良いデモンストレーションだったろ」
「て、て・・・てめえ、まさか最初っから、ソレ狙ってたんじゃ・・・」
「おう、物分りがよくて助かるぜ」
口をパクパクと動かしながらも上手く言葉にならなくて言いあぐねるサンジをよそにゾロは平然と肯定し、笑う。
「衆人環視の中で既成事実を作っときゃ、てめえも最早逃げられねえ」
一石二鳥だと笑う男にサンジは眩暈を覚えて傍らのベンチへヘナヘナと座り込んでしまった。
「というわけで公認だ。よろしく頼むぜ」
がっくりと肩を落として「レディが・・・レディたちが・・・」と涙目で呟くサンジの肩を数度、ポンポンと叩くと彼を
残したままゾロは意気揚々とその場をあとにした。
「あ・・・と、次の講義はどの教室だったか」
ゾロは何事もなかったようにのんびりと次の授業を受ける算段に移っていた。
最後にその場に一人取り残されたサンジは脱力しきった躯をベンチの背凭れに預けて燃え尽きて真っ白になった
灰のように茫然と果てていた ― 復活には今しばらく時間がかかるだろう。
その彼の金髪の髪を深まりゆく秋の寂寥とした風が撫でて過ぎていく。
世の無情を知ったサンジ、18歳の秋の日のことだった。
この少し後、二人はなれ初めとなった壁の薄いアパートから広めのマンションへと引っ越し、そこで一緒に
暮らし始めることになる。
ゾロが間を隔てる壁を厭い、半ば強制的に同居をサンジに了解させたのだ。けれど。
壁の厚い、格段に防音性に優れたマンションへの引越を余儀なくされた本当の理由はここでは語らずにおく。
終
※壁に馬 ≪壁に馬を乗り掛・ける(壁に馬を乗り掛ける)≫
→ だしぬけに、または強引に物事を行なうことのたとえ。また、そのために当惑することのたとえ。
わああいv モテモテ悪ゾロ様vvありがとうございます(><)
ほんとにもう、どうしようもないゾロなのに、実は色々画策してただなんて、
ちょっと可愛いじゃないですか!!性悪ですけど!(大笑)
巻き込まれて一蓮托生なサンジには申し訳ないけど、君しかこのゾロの相手は務まらない。多分。
だがしかし・・・ショートカット?!
エロシーンカットですか、すっ飛ばしですか!!うおおおおいいっ!!
縛られてイかされて啼かされたサンジを、改めてお願いいたします。m(_ _)m
サンジの純粋さに、瞠目したゾロがいいですね、じわんと来ました。
でもタダでは転ばないんだ〜つか、二股(複数股)かける気だったなゾロ(←そこか)
ああん、大好きな萌えゾロ様をありがとうございます!!