
それから三ヶ月位した頃に、ゾロはまた現れた。
俺の怒りはもちろんまだ持続していたから、普通に現れれば即蹴りだしてやった事は間違いない。
だがゾロはその時、負傷していた。
それも、ほとんど死に掛けなくらいな大きな傷を負っていたのだ。
ボートが流れ着いたと客が騒いでいるので、俺たちは甲板に出た。
そこには見慣れたボートが波に揺れていて、あの野郎、全く堪えずにまたのこのこ来やがって、と思った時には
既にボートを覗き込んでいた誰かが「凄い傷じゃねェか!」と言い、俺はボートに走り寄った。
そこには、右手にロープを握り締め、左手で血の吹き出る腹の傷を押さえたまま気を失っているゾロがいた。
バラティエには常駐の医者がいる。
俺たちは医務室にゾロを運び込み、ベッドに横たえた。
医者はゾロの傷を見て顔をしかめ、ただちに傷を縫いにかかった。
ゾロは気を失ったままで、それでも時々うめき声を上げていたからまだ死にはしないと俺は思った。
一体どこで、誰とどんな戦いをしてきたのだろう。
ここまで名の売れているゾロにこんな傷を負わせるとはどんな敵だったのか俺には想像もつかないが、名前が
売れるまでにはこうして命がけの戦いを何度も乗り越えてきたのだろうと思うと、改めて自分との差を見せ付けられる
ようで俺は軽いショックを受けていた。
ゾロは一命を取り留めた。
と言うより、ゾロがバラティエに着いた時気を失っていたのは怪我のためでなく、また何日も絶食状態にあったことが
原因らしいと分かって俺は気が抜けてしまった。
傷の方は深い事は深いが、ゾロの言う事を真に受ければ割と良くある程度の怪我らしい。
あの出血で良くある事とはよく言えたもんだと思うが、それでも手術の時に垣間見たゾロの腹にはいくつもの傷が
あって、しかもそれはどうやら自分で手当てしたらしくどれも酷い縫い跡だと医者も呆れていた。
ゾロは手術の後しばらくして目を覚まし、それから俺の顔を見るなり「なんか食い物をくれ」と言った。
全く、こっちの心配なんかどうでもいいらしい、相変わらずひでェ男だよ。
ほっとした反面腹がたって、俺は悪態をつきながらも飯を運んでやった。
「一体どうすりゃそこまでになるんだよ。お前強いんじゃなかったのか?鷹の目だかに会う前にそれじゃあ、
先が思いやられるぜ。お前が世界一になるのなんか待ってたらジジィになっちまう」
「・・・別にてめェに待ってくれとは言ってねェだろうが。年なんか関係ねェ。ジジィで世界一、上等じゃねェか。
ジジィになっても俺はあきらめねェぞ」
「そうかよ、好きにすりゃあいいだろ。その前に俺はさっさとオールブルーを見つけて・・・」
「オールブルー?」
「・・・なんでもねェ。どうせ知らないんだろ。それより、お前よくバラティエに辿り着けたな。しかもあの傷で」
「俺もどうやってここに着いたのか分からん。この傷をつけたやつは海軍に引き渡してきたんだが」
「え?引き渡してきた?」
「そうだ。当たり前だろ。せっかくの賞金首だ」
「だけどお前、その傷でか?お前、負けたんだろ?」
「誰が負けたと言ったよ。確かに今回は相手も強くて飛び道具なんか持ってたもんで、そっちを気にしてたら
斬られちまった。片手に拳銃、片手に刀の珍しい二刀流だったぜ。だが結局は俺が勝った。傷は自分で適当に
処理してそいつを海軍に連れて行った。そんでここへ来ようとしてたら、時化てきやがってよ、帆布をかけようとして
傷をしたたか打っちまって、どうも開いたみたいだな。その後は分からん」
「・・・分からんてお前、どうやってここに辿り着いたんだよ」
「だからそれが分からんと言ってるだろうが。嵐が止んだのは覚えてる。そのあとてめェん所の飯が食いたいと
思って進路を取ってた。だがあとは覚えてねェ。気づいたらここだった」
「・・・」
不思議な事もあるもんだが、それでも何となくこの男ならありえる様な気がして俺は黙った。
ひょっとして、無意識の方が冴えてるのかもしれない。
それにしても、相変わらずのゾロだ。
さっき傷を縫ったところだというのに俺が運んできた飯を綺麗さっぱり食べつくしている。
一体この男の体はどうなってるのだろうか。
早々に医務室のベッドから降りようとしたゾロを俺と医者は慌てて止めた。
だがゾロは次の日にはもう「治った」とか言って起き出して来た。
バラティエの料理長でオーナーのゼフは「ここは病院じゃねェんだから治ったらさっさと出て行け」と言ったのだが、
それでも怪我の程度を知っていたゼフも無理に追い出すことはできなかったらしい。
抜糸するまでは見てやりたいという船医の進言で、結局ゾロは二、三日バラティエですごす事になった。
当然、ただで置いてやるわけにはいかないから適当に仕事をさせた。
最初は簡単な掃除とかそんな事だったが、見ていると全然体は堪えていなそうなので段々重労働をまかられるように
なり、最後には水をくみ上げてろ過する仕事をさせられていた。
これは船員でも嫌がる重労働だったが、大怪我をしたばかりだというのにゾロは平然とそれをこなした。
ゼフもゾロの働きぶりを見て「フン」と言ったきり何も言わなかったから、文句の言いようがないと言うことだったのだろう。
バラティエにいる間、ゾロは自分のボートで寝起きしていた。
だから、俺は朝になるとゾロのボートに行き、ゾロを叩き起こす。
寒い時期だったので可哀相かなとは思ったが、思い返してみれば前回この男はおれに「いくらだ」と聞いたのである。
怪我の事ですっかり忘れていたが、あまり親身にしてまた変な期待をされると困るので部屋に入れなかった。
だが、ゾロが明日はここを出ると言った最後の夜、俺は酒を持ち込んでゾロのボートに腰を落ち着けていた。
「今度はどこへ行くんだ」
「南の方に名の知れた剣士が入るって話を聞いた。何とか探し出して勝負してみてェな」
「南ね」
俺は笑った。
ゾロが南と言いながら指差した方向が、確かにその正反対を向いていたからだ。
だが、それを訂正してやったところでその通りに行かれるとはとても思えないから、この際はこいつの本能に
従わせてやるのがもっとも早道なのではないかと思う。
「ああ。南へ下るとグランドラインへの入り口もあるって聞いた。もし運がよけりゃ、その入り口ってのがどんなのか
見る機会もあるかもしれねェ」
「グランドラインね。お前、本当にそこへ行く気なのか」
「当たり前だろ。イーストでじっと待ってるより、そっちへ入っちまった方が鷹の目に近づけるからな」
「・・・オールブルーも、そこにあんのかな」
「オールブルー?お前、こないだもそんな事を言ってたな。なんだそりゃあ」
「・・・何でもねェよ。こっちの話だ」
「お前、一緒に行く気はねェか」
「ええ?」
「グランドラインだよ。オールブルーがなんだか知らねェが、お前、それを探してるんだろ?それはここにいて
見つかるもんなのか。お前は・・・」
「煩ェ!俺はどこにも行きたくなんかねェんだよ!お前には関係ねェだろ、放っとけよ」
「・・・そうかよ。そんなら別にいい」
ゾロは酒をぐいっと煽った。
俺は、いかにも簡単に俺を誘うゾロが許せなかった。
人は、そう簡単に何もかもを放り出して旅に出ることなどできないのだ。
まして、俺にはオーナーのゼフに大恩と負い目がある。
そう簡単に誘われて、簡単に返事などできてたまるか。
気楽に誘ってくるゾロが心底恨めしかった。
「今回も随分世話になっちまったな。また来ていいか」
「・・・来られるもんならな。グランドラインに入っちまったらそう簡単には来られねェだろう」
「すぐにグランドラインに入るとは言ってねェだろうが。まだ時期じゃねェ」
「じゃあ、いつ入るんだ」
「いつとは言えねェ。それは俺が決めることだ」
「・・・そうかよ。勝手にしろよ。まあ来たけりゃ来りゃいい。その方向音痴で来られたらの話だけどな」
「また来る。お前の料理はスタミナ料理だな」
「・・・」
俺はちょっと驚いていた。
確かに、俺はゾロには特別栄養配分を考えた料理を出してやっていた。
傷を負っている時は吸収がよく、血が作られるように鉄分の多い素材を使ってやったし、治ってきたら今度は
タンパク質とビタミンを多く使った料理をして体力と筋力が回復しやすいようにしてやった。
そんな風に、客によって、その客に必要なメニューを出してやるのはバラティエの常連なら割に頻繁にされている
サービスだtったが、それでもそれと気づいた人間はほとんどいなかったのだ。
ゾロはそこまで深く考えてはいないだろうが、それでも本能でそれを察していたのだ。
びっくりしてゾロを見ている俺に、ゾロはふっと手を伸ばしてきた。
「いい店だ」
ゾロが、クシャ、と俺の頭を撫でた。
俺の胸が、ズキンと刺されたように痛んだ。
知らず、唇が震えてきた。
店を、料理を誉められる事がこんなにも嬉しかったのは、ゼフに誉められた時を除いてはこれが初めてだった。
「あ、当たり前だろ」
声が震えてはいなかっただろうか。
自分を認めさせたいなんて気負わなくても、ゾロは分かってくれている。
それが、泣きたい位に嬉しかった。
「・・・さあ、明日も早いんだ。行くぜ」
俺はゾロの顔を見ないようにして立ち上がった。
ゾロも何事もないような声で言った。
「おう、俺も明日は日の出前にここを出る。オーナーにはよろしく言ってくれ、あと船医のじいさんにも」
「分かった。また来いよ」
「必ず」
あっさりと別れてから、俺はその夜何度も起きて自室からゾロのボートを眺めていた。
暗闇の中、揺れるボートの中でゾロは腕を枕にしてぐっすりと眠っていた。
これから、あの男はどうやって世界一の大剣豪になっていくのだろう。
俺は無性に、それをずっと見ていたいと言う気持ちになっていた。
それはさぞかし、小気味いい道程だろう。
俺の、海へ出たいと言う気持ちは今までになく高まっていた。
だが、俺はバラティエを出ることは叶わないのだ。
俺の為に脚を失った恩人を、見捨てることは俺にはできない。
それからまた数ヶ月がたち、半分忘れかけた頃にまたゾロはやってきた。
今回も、どうやら一人では来られなかったらしく、懸賞首を道案内に連れてきた。
ちょうど海軍が店に来ている時で、それに気づくとゾロはすぐさま俺に頼み込んできた。
「悪ィ、海軍の連中が行くまでこいつを匿ってやってくれ。バラティエについたら解放してやると約束した」
「しょうがねェなあ・・・」
俺はしぶしぶ俺の部屋を明け渡した。
それでも懸賞金なんかがついている人間に勝手に俺の部屋を弄られたらたまったものではないから、ゾロも一緒に
押し込んで見張りをさせた。
そうすると料理も部屋で食べさせなければならないから、狭い部屋に料理を運んでやって食べさせてやった。
部屋食だぜ、あまりにも良すぎるサービスだけどな。
「豪勢じゃねェか」
ゾロは運ばれてきた料理を見て目を輝かせた。
久しぶりだったし、この間の事があったから俺は今までに増して料理に打ち込んでいた。
その成果を見せてやろうと思ったわけではないが、無意識に力を入れすぎてしまったらしい。
大ホールで他の客と一緒に食わせていたらクレームが出るところだ。
「たまたまだよ、たまたま。丁度買出しに行ったばっかりだったからな。代金はちゃんと払ってもらうぜ」
「当たり前だろ。今日も金は持ってきた。今回もお前が買い出しに行ってたのかよ」
「そうだぜ。他のもんも見たかったしな」
「他のもんてなんだ。もしかして色町にでも行ったのかよ」
「だからあの島にはねェと言っただろうが!てめェはそればっかりだなあ」
「そんならいい。お前と入れ違いにならなくて良かったと思っただけだ」
「・・・まあな」
俺がサボりを兼ねてゾロたちが食事をしているのを眺めながら一服していると、ゾロが捕まえたという懸賞首が話に
割り込んできた。
「なんだよあんちゃん、色町に行きてェのか。そんだったら俺がいい所を知ってるぜ」
ゾロは大口で料理を頬張りながら答える。
「なんだよ急に。美人局ならお断りだぜ」
「美人局なんかじゃねェよ。俺は海賊だぜ。安くていい店を知ってんだ。気立てのいいのばっかりでなあ、言えば
なんでもやってくれるぜ」
「へェ。詳しいな」
「あの頃は船中で通い詰めたからなあ。どうだ、あんちゃんはどんなのが好みなんだ?」
男はいかにも面倒見のいい海の経験者のような顔をしてゾロに聞いているが、その時の俺には好色の親父のように
しか感じられなかった。
ゾロは色町に行きたがっていたし、丁度いいだろうと思うがどうも面白くない。
ゾロが言った。
「そうだな。別に好みってのはねェが、今はいい」
「どうしてだよ。遠慮すんなって。俺を海軍に引き渡さないでくれた礼をしてェんだ」
「礼ならここへ連れてきてもらった事で済んでる。それ以上になると俺の借りになっちまう」
「そうじゃねェよ、ここで海軍に顔を見られねェようにしてくれたじゃねェか。その礼がまだだろ」
「そんなのは別にいい。それに、今はそれ程色町に行きてェと思ってるわけじゃねェんだ」
「なんだよ、若ェのに枯れちまったか?」
「誰が枯れるか。そうじゃねェ。欲しいのがいるんだ、一人」
その途端、俺の心臓は跳ね上がった。
ゾロが「一人」と言った時、その目はまっすぐに俺を見たからだ。
「へェ。惚れちまったってわけか」
「そうだな。そうらしい」
俺はいたたまれず咳き込むふりをして視線を逸らした。
ゾロはまだ、俺を見つめている。
「若ェってのはいいね。まあ頑張りなよ。ものにできる事を祈ってるぜ」
「ああ、そのつもりだ」
「自信家だねェ」
男はそれ以上は強く勧めず、料理に没頭し始めた。
俺は、ゆっくりとその場を離れた。
厨房に戻って料理を始めたが、ゾロの言っていた事が頭から離れなかった。
ゾロがあの時俺を見たのは、どういう意味だろうか。
まさかおかしな意味があるとは思えない、もしかしたらそういう話を俺とゆっくりしたいとでも思っているのだろうか。
その落としたい相手がどこの誰かは知らないが、そういう話をできる連れも仲間もいないのだから、たまにしか
会わないがそれでも同じ年の気楽さで、俺に打ち明けたいと思っているのかもしれない、きっとそうだ、そうに違いない。
俺は自分自身に結論をつけ、そういう事なら一晩部屋に泊めてやって、夜通し惚れた女の話を聞いてやっても
いいと思った。
俺だって18になって、バラティエに客としてくるレディ達の中にはちょっと気がある素振りなんかを見せてくれる
レディもいるわけだから、これからどうすればいいのかちょっと悔しいがゾロに相談してみるのもいい。
このレストランは俺以外みんな大人ばかりだったから、そういう話に等身大で乗ってくれる相手もいなかったのだ。
イーストブルーの魔獣とそんな話をするのも稀有な体験ではないだろうか。
俺は自分勝手に決めた結論に半ばワクワクして、夜になるのが待ち遠しくなっていた。
海軍が帰ると賞金首をゾロのボートに追いやり、俺はニヤニヤ笑いながらゾロに手招きした。
ゾロは一瞬眉をひそめ、それから俺の後について部屋にやってきた。
入り口でぼさっとしているゾロを、俺は押し込むようにして中に入れた。
「・・・入っていいのかよ」
「まあ入れって、酒もあるぜ。くつろいでくれよ」
「変なやつだな。なんかウラでもあるんじゃねェだろうな」
「全く無粋なヤツだぜ。それともそれ位慎重じゃねェと魔獣なんて呼ばれたりしねェのかな。まあいいじゃねェか。
今日はゆっくり飲もうぜ。話を聞いてやるから」
「・・・話って何の話だよ」
ゾロはそれでも胡散臭そうな顔をしながら床に座り込んだ。
俺はその横にスペースを作って座り込み、グラスに酒を注いだ。
「まあまあ、色々打ち明け話ってのもいいんじゃねェのか?隅に置けねェなあ。いつの間にそんな相手ができたんだよ。俺には話してくれたっていいだろ」
「・・・相手」
「昼間あの賞金首のやつに言ってただろ。落としたい相手ってのは誰なんだよ。どんなレディだ?美人か?
胸は大きいのか?」
「・・・レディってお前」
「ああ分かってるって、お前にレディなんて言葉は似合わねェよな。なあ、相手は素人さんなのか?それともバーの
ママとか。話してみろよ。それともアレか、俺の方から話してやらないと恥ずかしいか?そんなら俺から話すぜ。
最近俺、結構もてるんだぜ。こういう事ではお前に出遅れちまってるけど、俺だってそろそろほら、一度経験して
みてェだろう。なあ、最初はどんなレディがいい?お前はどんな相手だったんだ?俺だってよ、本では色々知ってる
けど、なんて言っても最初はどうしたって手間取るだろうから、初めては慣れたお姉さまのほうがいいのかなあ。
なあ、どう思うよ」
「・・・・・・・・」
「それともやっぱり惚れた相手がいいのかなァ。ったく、悔しいけど羨ましいぜ。どんなレディでも魅力的なんだけどさ、
それでも惚れたなんて言うのは俺にはまだ分からねェもんなあ。けどよ、それを待ってたらいつまで経っても俺」
不意に、俺の頭が固いものにぶつかった、と思ったらどうやらそれはゾロの肩で、どうした事か俺はゾロにくっついていた。
「・・・ん?」
気づくと、くっついていると言うよりどうも抱き寄せられているらしいと分かったのは、ゾロの手が俺の頭を掴んで
顔を寄せてきたからだ。
「ゾロ?」
今にも唇が押し付けられそうな寸前に、ゾロの唇は方向転換して片手でかき上げた俺のおでこの生え際にそれを
掠めていった。
「・・・何、すんだよ・・・」
「・・・ものにすると、言ったろ」
「・・・もの」
俺の頭の中はぐーるぐーると回っていた。
えー、今のは多分ゾロが俺にキスをしようとしていた、ものにすると言った、と言った。
それはもしかして、というか最初に「一人」と言われた時咄嗟に思ってしまったとおり、こいつの欲しい相手というのは
俺と言う事なわけなのだろうか、もしかして。
「・・・俺?」
「鈍いな」
「えええええええええ」
俺はくっついているゾロをできるだけ遠くに離すべく、両手でゾロの体を押した。
が、いかせんベッドと小さなテーブルだけで一杯のこの部屋、床のスペースは狭く、そこに二人で座っているのだから
必死で押し返してみたところでたかが知れている。
それはせいぜい壁に押し付けてみたところで、ゾロから逃れたと言う気分にはならない。
「な、何言ってんだよ、血迷ったか」
「血迷ってるな、確かに。けど惚れちまったんだ、しょうがねェだろ」
「しょうがなくねェぞ。俺は男だぞ。よく考えてみろ。俺だってレディが好きだ。男に惚れる事はねェ」
「でもお前、女にだって惚れた事はねェんだろ。それだったら俺に惚れるって可能性もあるだろうが」
「あるわけねェだろ。俺とお前は、あえて言うならお友達。はっきりしてる事は客と店員。それ以上でもそれ以下でもねェ」
「まあ落ち着けよ。別に今すぐ取って食おうと思ってるわけじゃねェんだからよ。無理やりってのは趣味じゃねェ」
「何を勝手に、自分で結論つけてるんじゃんねェ!今すぐじゃなかったらいつだってんだよ。今すぐもずっと先も
無理だぞ。お、お、お、男と寝るなんて俺は絶対無理だ」
「そうと決め付ける必要はねェだろうが。やってみりゃ、案外いいかもしれないぜ」
「嘘付け!何がうれしくて男と乳繰り合わなきゃならねェんだよ!いいか、てめェは経験豊富で女なんか珍しくも
ねェから次は男とやってみようと思ってるのかもしれねェが、俺はパス、パスパスパス。女の子も経験しないで、
何で男と・・・」
「嘆くなって。そんなにやりてェなら、次に俺が来るまでに童貞捨てて来い。そんでそれから比べてみりゃ」
「それからもこれからもねェぞ!比べる必要なし!俺は一生女の子だけを愛しぬくと誓います!」
「誰に誓ってんだ。全く面白ェやつだなあ」
「笑うなあ!!」
「まあいいじゃねェか。俺は気が長ェんだ。俺はまたここに来るし、その内血迷ってお前も俺に惚れないとは
言い切れないぜ」
「言い切れるっての!てめェはさっさと他の相手を探した方が早いんじゃねェのか?確かに俺はいい男だけど、
俺以外にてめェの愛情を受け止めてくれるやつがきっといるぞ。だから、な、ゾロ」
「そんで説得してるつもりかよ。それ聞いただけで分かるぜ。てめェは本当に誰かに惚れた事がねェんだな」
「う、うっせ・・・」
どうやらどこまで行っても平行線だ。
だが、本人の言葉通り無理やりどうにかしようと思っているわけでないことはゾロの態度で分かった。
だから、今回は俺もゾロを追い出さなかった。
「ま、せっかくの酒だ。飲もうぜ」
「・・・お、おう・・・」
ゾロは俺が持ってきた酒をグラスに注いで、俺に手渡した。
なぜか乾杯してそれを飲み干し、それからゾロが今までの賞金首の話を始めたので俺はそれを聞き、夜更けまで
二人で酒を飲み交わした。
いまひとつ本気なのか冗談なのかつかめない男だったが、それでも俺はゾロが好きだった。
ただこの好きというのはゾロが言うようなものとは違って、例えば素敵な女の子に会ったときに手を握りたい、とか
抱きしめたい、と思うようなものではない。
友達とおホモだちの違いは相手とセックスできるかどうかだと聞いたことがあるが、その点では俺にとってゾロは
友達の域を出なかった。
そんな風にしてゾロは賞金首を連れてバラティエを訪れ、何度目かの時はまた血まみれになって辿り着いた。
そろそろバラティエの面々も慣れっこになってきていて、皆でボートから血だらけのゾロを医務室に運び、そして
その傷を船医が縫ってくれた。
「てめェな、ここはてめェのホームシップじゃねェんだぞ。てめェは賞金首でもなんでもねェんだから、どっか
その辺の島に寄って治療してもらってから来い」
ゾロが医務室のベッドの上で目を覚ますと、オーナーのゼフがゾロに一言言い放った。
確かにバラティエには船医はいるが、それでも島の医療施設に比べたら簡単な設備しかないのだから、
必死になってここまでたどりつくよりその辺の島に寄った方が合理的に決まっている。
だがゾロはニヤリと笑っただけでそうするとは言わなかった。
ゾロはゼフの後ろに立っていた俺に視線を落とし、それを見たゼフは小さく舌打ちして部屋を出て行った。
言っても無駄だと諦めたのだろう。
怪我をしたゾロがバラティエに現れるのはここの食事が一番回復にいいと思っているからだと言う事は分かっていた
が、それでも早く治療してもらえればそっちの方が早いわけだから、一体全体この男の計算能力というものは
当てにならない。
それからも何度かゾロは怪我をしてバラティエに現れた。
治療代も置いていくからバラティエに損はなかったが、それでも「ここは病院じゃねェ」というゼフや他のコックの
視線が痛いような気がしてくるのはもっぱら俺の方だ。
ゾロは全然そんな事は気にしないで、仕方ないからここは「友達」という事になっている俺がゾロに一言言わなければ
ならないという羽目になる。
その事が、俺をどん底に突き落とすなど思いもしないで、俺はゾロに説教を始めた。
「なあ、ゾロ」
「ああ?」
「いい加減、怪我したらどっかの島に寄れよ。そんで治してからまた来い。バラティエには宿泊施設はないんだからよ。
お前が治るまで泊めてやるのは本当はあんまり良くねェんだよ。コックがみんな自分の友達をここに泊めてたら
きりがねェだろ」
「・・・そうか。そうだな」
「お前もさ、なんだってここに来るんだよ。ゼフだって言ってるだろ。治してから来りゃいいって」
「自分でも分からんと言っただろ。怪我すると、ここに来てェなあと思っちまう。思っちまうと、いつの間にか着いてる。
傷で死ぬとは思ってねェんだが、もし死ぬとしてもてめェの顔見てからにしてェから」
「・・・!」
俺はガタン、と音を立てて椅子から立ち上がった。
ゾロは俺の反応など気にしない風で、話を続けた。
「そんでも、そうだな。店には迷惑をかけちまった。次に怪我した時は他へ行く様にする。客としてくる分には
問題ねェだろ。でもそれももうしばらくだな」
「・・・どういう意味だよ」
「俺はグランドラインへ行く。その為の船と、仲間を見つける事にした。グランドラインの方が、強いやつが一杯いると
聞いた。鷹の目を見つけるにも、経験を積むにもそっちの方が効率的だろう」
「そ、そうかよ・・・」
「もう一度聞くぜ。お前は一緒に来ねェか。俺はイーストをあちこち動き回りながらてめェの言ってた『オールブルー』
ってのの噂を聞いて回った。『オールブルー』の話を知ってるやつは何人もいたが、そんなものは伝説で、
存在しないんだと言うやつばかりだ。俺もイーストはあらかた回ったが、どうもイーストにはないようだぜ。そんなら
グランドラインの方が・・・」
俺は最後まで言わせず、ゾロを蹴り飛ばした。
けが人だったが、そんな事は構っていられない。
「痛ェな!何すんだ」
案の定何事もないような顔でゾロは立ち上がった。
俺は、憤懣やるかたなく怒り捲くった。
「誰がてめェに探してくれと頼んだよ!『オールブルー』は俺が見つけるんだ!余計な事すんな!恩着せがましく
探りやがって、俺の夢が、てめェなんかに分かるか!!」
「・・・」
「出てけ!勝手にグランドラインでも行って野垂れ死んじまえ!イーストでそんな怪我して来るてめェなんかが、
グランドラインでやってけるか!そんなのに命預けて、誰が一緒に行くかってんだ!」
俺はバーンと医務室のドアを閉め、その辺のものに当り散らしながら厨房へ向かった。
もう顔を見るのも嫌だった。
あまりにも人の気持ちを分かってない。
もう、ゾロに振り回されるのは真っ平御免だった。
ゾロは、その日そのままバラティエを出て行ったらしい。
船医にも、何の言伝もなく出て行ったと聞いた。
もうどうでもいいと思った。
俺はまだ怒っていて、もう二度と会いたくないと思っていた。
それから二日ほどして、ようやく俺の頭も冷えてきた。
ちょっと言い過ぎたかなと思う。
ゾロは俺がこの船を離れられない事情など知らないから、俺がゆっくりでいいから自分で探し出そうと思っていたこと
など知るわけもない。
俺の代わりにちょっと調べてやって、それでオールブルーがイーストにないと分かれば俺もグランドラインに一緒に
ついてくるだろうと思ったのだろう。
だが俺は行かれない。
少なくとも、今すぐには。
ゾロは、いつそこへ行くのだろうか。
船と仲間を探すのだと言っていた。
それは簡単に見つかるものなのだろうか。
そして、それが見つかったらすぐにグランドラインへ向かい、そのままもう二度とバラティエにはやって来ないのだろうか。
ここまで来て、俺はようやくゾロと永遠に別れてしまったのかもしれない事に気づいた。
もう一度会いたいと思っても、俺にはゾロに連絡を取る手段はない。
もう二度と会えないかもしれないという思いは、日を追うに従って俺の中で大きくなっていった。
ゾロの噂は、それ以来あまり聞かなくなった。
たまに聞かれる噂では、どういうわけか海軍に捕らえられたとか、いやグランドラインへ入ったとか。
だが真偽の程は定かではない。
今となってはどうすればよかったのか、俺には分からなかった。
死ぬ前に、俺の顔を見たいからバラティエに来たと言ったゾロ。
俺が言ったように、もしグランドラインでゾロが野垂れ死ぬような事があったら、ゾロは最後に俺の顔を思い出して
くれるだろうか。
それとも、あんなに酷い言葉を投げつけた俺の事などもう忘れて、新しい仲間と戦塵を巻き上げているのだろうか。
最後の最後まで、戦場で阿修羅のように戦いながら、その最後の瞬間にゾロは立っているだろうか。
俺が近くで見ていたいと願った、ゾロの世界一への道を、俺の知らない仲間と共にまっすぐに歩いていくのだろうか。
俺にはもう、それを知る手立てはない。
それからほどなくして俺は19になった。
ゾロと初めて会ってから、二年の月日が経とうとしていた。
「今度来る時までに童貞を捨てておけ」とゾロに言われたように、俺はちょうど良く誘ってくれた年上のレディと
買出し用の船で島へ行き、そこで童貞を捨てた。
それは思ったよりも普通の出来事で、俺は緊張はしていたがドキドキはしていなかった。
精一杯背伸びをしてレディの導くままに抱き、そしてレディには心を尽くして礼をした。
けれどそれは俺に、虚しさを残しただけで終わってしまった。
やはり、最初は本当に好きな相手とするべきだったのかもしれないと後から後悔した。
それでも、例えば本当に惚れた相手が初めてだったら、やはり男の方がリードしてやらなければならないだろうから
経験しておくことは無駄ではないのだと自分に言い訳をする。
だがそれから船に戻り、時に性的な興奮を自分で処理する時に思い出すのはその初めてのレディではなかった。
それは、浅黒い肌をした、形よく全身に筋肉のついた、大きな手の。
「欲しいやつが一人いる」とまっすぐに俺を見た、鋭い目。
かき上げた髪のその生え際に、かすかに残る唇の感触。
それは何よりも俺を興奮させる。
もう二度と会えない、俺が引導を渡してしまった相手だ。
今更気持ちに気づいたところでどうしようもない。
世の中にはレディが沢山いて、魅力を振りまいていて、中には俺に気のある流し目をくれる素敵なレディだっているのに。
他では、駄目なのだ。
今なら、ゾロの言った事が分かる。
人に惚れると言う事がどういう事なのか、俺は今ならはっきりと分かるのだ。
俺をかき回して、口説いて、死ぬ時に顔が見たいなんてプロポーズみたいな事まで言って。
いい店だなんて誉めて、俺の料理を認めてくれた。
絶対にものにするんだなんて言ったくせに、本当に惚れるって事がどんな事かなんて、偉そうな事を言ってたくせに、
あんな簡単な事で、もう諦めちまうのかよ。
お前の本気って、そんなもんだったのか。
なあ、ゾロ。
本当に酷いやつだよお前は。
そう思うだろ。
あれから数ヶ月が経っていた。
ゾロがどうしているか、気にはなったがなるべく考えないようにしていた。
考えないようにして、そして自然に俺の中から消えていけばいいと思っていた。
相変わらずバラティエは忙しくて、この間はウエイターとコックの間に騒動が持ち上がり、ウエイターがまとめて
やめてしまったから、副料理長とはいえ一番年下の俺がウエイターをさせられる羽目になった。
そんな時だ、あのルフィって名前の海賊が現れたのは。
バラティエの屋根に砲弾をぶち込んでゼフに首根っこを押さえられたそいつは、しばらくのあいだ雑用として
バラティエで働く事になった。
こいつがまた変なヤツで。
だが、驚いたのはそのルフィの仲間としてバラティエに飯を食いに来た連中の中に、ゾロがいた事だ。
ゾロは何と、海賊になっていたのだ。
それも俺が見たこともないようなキュートなレディを連れていたから、俺は頭にきた。
だがナミさんというそのレディはただの仲間で、そしてルフィとゾロはこれからグランドラインに入るつもりだと聞いて、
俺はゾロにそっと合図を送った。
ルフィが雑用として働き始めたその夜、ゾロは俺の部屋にやってきた。
前の時のようにやはり「いいのか」と聞き、俺は黙って頷いた。
どちらもしばらく黙っていたが、ゾロがようやく口を開けた。
「・・・この間は、悪かったな」
「・・・」
「勝手な事をした。俺だって、人の手で世界一になりたいわけじゃねェ。ちょっと考えれば分かった事だ。すまなかった。
あの時は俺もなんだか無性に腹がたってそのまま出てきちまったんだが、謝りたいとずっと思ってた。すまなかったな」
「・・・いいよ。俺が悪かったんだ。俺はここを出られない。お前の事がずっと羨ましかったんだよ。お前は自由だ」
「・・・どうしてなんだ。俺は、ここへ寄ると決まった時、もしできりゃまたお前を誘ってやりたいと思ってた。一人で
探すより皆で行った方がいいに決まってる」
「そりゃあ分かるよ。分かってるんだけどな。それでも行かれねェんだ」
俺は、そこで初めてゾロに、ゼフの足を自分が奪ってしまった事を話した。
ゾロは真剣に聞いてくれて、そして分かってくれた。
「・・・あのジィさんがそこまでお前を縛ろうと思ってるようには見えねェんだが、周りには見えない事もあるんだろう。
仕方ねェな」
「分かってくれるか。でもきっといつか俺も行くぜ、グランドライン。そん時まで、お前らグランドラインで生きてろよ」
「待っててやるから早く来いよ。けど・・・」
「なんだよ」
「・・・しょうがねェな。お前が行きたいと言ってるもんを。今ここで、お前をかっさらって船に乗せちまいたい位だ」
「ゾロ」
ゾロの目が、俺を見ていた。
「欲しい」と言った、あの時の目で。
欲しかったのは、これだ。
どんな経験も役には立たない。
惚れた相手と夜を共にすることは、他の何よりも人を興奮させる。
「なあ、ゾロ」
「なんだ」
「お前、あれから色町に行ったのか?」
「いや、行ってねェ。いや、行ったんだが、できなかった」
「俺はさ、お前に言われたとおり童貞を捨てたぜ」
「そうか。どうだった」
「良かったぜ。けど、比べてみなきゃ、やっぱり分からねェな」
「・・・」
「お前、まだ俺を買いたいか?」
「・・・売ってくれんのか」
「いいぜ。10万ベリー」
「10万か、ちょうど手持ちがある。売ってくれ」
「バカ、今出すな。代金はつけとく」
「けどよ」
「払いに来い。何年でもつけといてやる」
「・・・分かった」
俺はベッドに腰をかけていて、テーブルの向こうで椅子に座っているゾロに手を伸ばした。
迎えに来るその手を掴み、そのまま引き寄せる。
テーブルにぶつかりながら、ゾロは体を寄せてきた。
そのまま二人してベッドに倒れこみ、唇を合わせる。
ああ、ゾロだ。
ゾロが何度も確かめるように唇を離して俺を見るから、俺はゾロの背中に腕を回して夢中で引き寄せた。
舌の先で唇をなぞられ、こちも舌を出してやったらすっぽんみたいに吸い付かれた。
そのままゾロの口の中を嘗め回してやり、ゾロの口内を味わう。
体中が興奮して、もがくようにしてゾロの体を手で撫でまくった。
跳ね回る俺の体をゾロに上から押さえつけられて、興奮が行き場を失うから頭に血が上る。
ため息みたいな喘ぎ声が出て、ゾロがちょっと驚いたような顔をしたからバカみたいに恥ずかしくなって顔を背けた。
ゾロは俺の顔を両手で挟み、自分の方を向かせて顔中に唇を落としてきた。
ゾロの手が髪の毛をかき上げただけで、俺の興奮は倍増した。
想像していたのと同じ唇が、生え際をなぶるようにして口付けていく。
背中がゾクゾクしてたまらない。
俺はただ目を閉じて、ゾロの与える感覚の海に身を投げ出した。
耳に息を吹き込まれ、耳たぶを甘噛みされて、それだけで俺の性欲はビンビンに硬くなっている。
もう何と比べられるものなんかない。
心臓は爆発しそうだし、涙腺が緩みそうで必死で堪えている。
こんなのは、初めてだ。
これこそが、本当の俺の初めてなのだ。
ゾロは時間をかけて俺の服を脱がした。
俺は服を脱がされながら、虚栄心とか、意地とか、常識だとか、そんなものを一緒に脱ぎ捨てて行った。
俺もゾロのシャツに手を入れて、その傷だらけの肌をなでる。
その手が背中に回ったらやけにすべすべして、そうか、こいつの傷は腹だけなんだ、こいつは敵に後ろを向けたこと
など一度もねェんだと思ったらなぜか泣けてきた。
これからも、ゾロはそうやって生きていくのだろう。
その道程を、俺が見ることができなくても。
せめて、ゾロの中の何かになりたかった。
ゾロが抱いた、何人もの相手の中の一人でしかないとしても、ゾロは「惚れた」と言ってくれたから。
俺は躊躇わなかった。
全てを感じたかった。
皮膚で、粘膜で、胸で、頭で、そして心で。
欲しいなら何でもくれてやるつもりだったから、ゾロが俺の全身を探索し終わって、何度も二人で達してから、
ぐったりと体を投げ出す俺を後ろから抱きしめてきて、「お前の中に入りてェ」と言った時も俺は拒まなかった。
俺は買われた人間だ。
10万て金を取るんだったら、客の要望にはできるだけ答えてやるべきだろう。
ゾロはそれまで以上に時間をかけて俺の体を撫で回しながら、ゆっくりと俺のそこを解していった。
魔獣と呼ばれるこの男のどこに、こんな慎重さが隠れているのだろうと思うほど、ゾロは急がなかった。
俺は恥ずかしさも苦しさも、全部さらけ出したがゾロを止めなかった。
ゾロはそんな俺の全てを見ていた。
充分にほぐれてゾロが俺の中に入ってきた時も、ゾロは自分だけで終わろうとはしなかった。
繋がったまま何度もキスをして、届く限りその唇で跡をつけられた。
俺の柔らかい部分を吸われる時、俺はゾロを受け入れている肉体の苦しさを忘れ、陶酔の域にいた。
ゆっくり、だが力強くゾロは何度も腰を打ち付けてきた。
次第に痛みが薄れ、ゾロが出入りする感覚が徐々に痺れた様に体内を満たし始めた。
ゾロは自分が当たると俺の体が跳ねる場所を見つけ出し、そこを重点的に責め立てた。
俺は「イイ」とか「そこ」とかまるで本物の娼婦みたいな言葉を喚き散らし、やがてゾロに口を塞がれた。
膨れ上がった俺の欲望がゾロの手で弾けた時、ゾロもまた俺の中で最大にまで膨らんではじけた。
二人とも汗まみれだった。
覚えがないほど疲れ果て、ゾロの体を全身で受け止めながら、俺もまたベッドに沈んでいった。
しばらくまどろんだ後、俺が目を覚ますとゾロが俺をじっと見ていた。
ゾロは俺の髪をかき上げ、そこに唇を寄せながら言った。
「金は」
「・・・うん」
「お前がグランドラインに取立てに来い」
「そうだな。どっちでもいいよな」
「なあ」
「なんだよ」
ゾロは俺の手足に、その手足を絡ませて言った。
「いつか同じ船に乗れたら、そん時はもう離さねェ」
「・・・うん」
「乗れそうな気がしてんだ」
「・・・ああ」
「本当だぜ、お前と冒険してェな」
「・・・うん」
俺には相槌を打つ以外には何もできなかった。
何かを言えば、泣きそうだったからだ。
どこまでも酷い男だろう。
男の俺を泣かせるなんて、ちょっと他には考えられない。
そして俺たちは眠った。
互いの手を、しっかりと相手の背中に回しながら、かつてないほどぐっすりと眠った。
それが、俺が海賊船に乗るまでの俺とゾロの話だ。
その次の日、クリーク団のギンがやってきて全てが動き出した。
俺の目の前でゾロは捜し求めていた鷹の目に切られ、死に掛けた。
だがゾロは死ななかった。
そして、ルフィに「もう負けない」と約束したのだ。
その場面を、俺がどんな思いで見ていたか分かるだろうか。
死ぬ時は、俺の顔を見たいと言ったゾロ。
鷹の目のような、そんな相手がグランドラインにひしめいているのなら、貸しを返してもらう事など到底叶わない
ではないか。
ゾロはルフィに言われるまま、怪我を負った体のままナミさんを追って行ってしまった。
ルフィとゾロの間に既に出来上がっている信頼関係は、ゆるぎないものに思える。
俺にはこのルフィと言う男のどこにあの魔獣と呼ばれる男の心を掴むものがあったのか分からないかったが、
それでもルフィの戦いぶりを見て、またこいつの底なしの大らかさを目にして俺にも分かった事があった。
馬鹿だ馬鹿だと人から言われても、ただ一つの夢を追いかける男は強いのだと。
俺はルフィに夢を語った。
誰もが馬鹿にして、そんなものはないと笑った俺の夢を。
ルフィは笑わなかった。
俺は、ルフィと一緒に行く決意をした。
俺がまだ出られないと思っていたバラティエは、俺をあっさりと送り出してくれた。
俺の足かせは、俺自身がはめていたものだったのだ。
そして気づいた事もある。
俺は、このバラティエが本当に好きだっのだと。
離れられないのだと言い聞かせていたのは、離れるのが寂しかったからだ。
だが俺はもう決めていた。
ルフィについていく。
俺はオールブルーを見つける。
そして、俺はゾロの世界一への道を見届けるのだ。
船がバラティエから離れていく。
俺たちは、ゾロが向かったと思われる進路を追っていった。
俺がルフィの仲間になって、ゾロと一緒に旅をする事になったと知ったらゾロはどんな顔をするだろう。
それだけが、今は楽しみだ。
end
きゃ〜〜〜v めっさラブラブじゃないですかあ。つか、のろけかコラサンジ!!
なんて幸せな読後感。ゾロへもサンジへも愛が溢れて、違う視点での出会いを
堪能させていただきました、ありがとうございます!
サンジの心の機微とかとても丁寧に描写されてて、いちいちウンウンとか頷いてしまいました。
ゾロは、最初からブレてないの。ぞっこんなの!うはは〜v
こんな悪ゾロ様もいらっしゃるのだ。えへん!(なぜ威張る)
ほんとにほんとに、ありがとうございました!嬉しいようぅvv